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経営のヒント

中小企業経営者さま必見!
新しい問題解決の方法「ADR」とは

  • 専門家に聞く
  • 相続

この記事は6分で読めます

中小企業経営においては法律が絡む問題が発生することもあります。そんな法律問題の新しい問題解決の方法を、一般社団法人家族のためのADR推進協会 小泉道子代表理事にシリーズで解説いただきます。


突然ですが、こんな場合、あなたならどうしますか??

事例1

事例1)

中小企業を経営する社長のAさん、ある日突然、脳梗塞で倒れ、帰らぬ人となりました。そして、早速に勃発する後継者争い。社内は、長男派閥と次男派閥に分裂し、険悪なムードです。もちろん、遺産分割も進まず、事業用資産も運用できないまま、経営に支障をきたしてしまいました。長男と次男の双方が弁護士を立て、家庭裁判所で争いましたが、最終解決まで約1年。その間に、会社が長年培ってきた信用はなくなってしまい、取引先もお客さまも離れていきました。

また、こんなことは、あなたの身に起こりえないでしょうか。

事例2

事例2)

家族経営で小さな会社を切り盛りする夫。そして、その夫を経理担当者として支える妻。ずっと公私ともに二人三脚でやってきた二人ですが、次第に関係が悪化し、ついには離婚することに。しかし、会社の運転資金の借入れのため、個人資産を担保に入れていたので、公私の資産が入り乱れ、離婚時の財産分与が複雑になってしまいました。結局、裁判になり、公開の法廷で争いましたが、夫婦の私的な部分のみではなく、会社の経営に関することまで晒してしまうことに。経理担当者であった妻がいなくなったため、社内も混乱し、結局、離婚騒動から2年も経たずに、倒産してしまいました。


このように、中小企業の経営者のみなさまは、家庭と仕事の距離が近いが故に、様々な問題が起こりやすかったり、複雑化しやすかったりします。




今日は、そんなみなさまに是非知っておいていただきたい「問題解決の方法」についてお伝えしたいと思います。

1 ADR(Alternative Dispute Resolution)という仲裁制度

ADRは、日本語では「裁判外紛争解決手続」と言われたりしますが、読んで字のごとし、裁判所の一歩手前の解決を目指す手続きです。 みなさんは、何か法的な争いを含む問題が発生したとき、どんな解決方法が思い浮かぶでしょうか。多くの方は、弁護士に相談に行ったり、裁判所に申し立てたりといった解決をイメージすると思いますが、問題に詳しい専門家が当事者の間に入って仲裁や仲介をするのがADRです。

このADRは、今から11年前に裁判外紛争解決手続促進法(以下、「ADR法」とします。)が施行されて以降、じわじわと世に広まりつつあります。しかし、まだまだご存知ない方も多いと思いますので、以下で少しご説明いたします。

  • 法律ができた背景
    1999年以降、日本の法制度を「身近で、早くて、頼りがいのある制度」にするため、司法制度改革が進められてきました。みなさんも、法科大学院の設置や裁判員制度の導入といったニュースを耳にされたことがあると思います。 そして、この一連の司法制度改革の中で、専門性の高い分野における迅速な解決や当事者の自主決定の尊重が見込めるADRをもっと世に広めることを目指して施行されたのが、ADR法です。

  • 法務大臣の認証制度
    ADR法の要は、法務大臣の認証制度です。いくら専門家と言われても、単なる民間の一事業者に法的な問題の解決を委ねるのは不安だったりします。そのため、法務大臣の認証を取得した機関のみが認証ADR機関として、仲裁・仲介活動が行えるようになっています。そして、その認証を取得するためには、公平・中立性や専門性についての厳格な審査を通過することが必要なのです。

  • ADRで解決できる問題の種類
    多種多様な専門分野がありますが、経営者のみなさまに身近な分野をいくつかご紹介します。
    • 不動産(不動産賃貸全般や敷金返還など)に関するADR
    • 中小企業の事業承継に関するADR
    • 金融商品に関するADR
    • 労働関係紛争に関するADR
    • 離婚や相続といった親族問題に関するADR

2 ADRの特徴

最近、よくみなさんから聞かれるのが、「裁判所での解決とどう違うの?」、「弁護士に依頼するのとは何が違うの?」といったご質問です。確かに、違いが分かりにくかったりしますので、以下でご説明したいと思います。

  • 早い
    裁判所での解決は、どうしても時間がかかります。なぜなら、「期日」と呼ばれる話合いの場が約1カ月に1回しか設けられないからです。また、年末年始や夏休み、年度末前後などは、やれ裁判官の長期休暇だ、異動による担当者の変更だということで、「期日」の間隔が2か月以上空いてしまったり、進んでいた議論がまた数歩後退することもあります。その結果、最終解決まで1年以上かかったということも珍しくありません。 しかし、ADRであれば、自由に期日の設定ができますので、一週間に一度、話し合うことも可能です。

  • 安い
    みなさんのイメージ通り、弁護士に依頼して訴訟をするとなると、少なからずお金がかかります。弁護士は、資格を取得するために多くの時間と労力を割く必要があり、高い専門性を有しています。そして、裁判の際の難しい書類や法律的な主張も任せることができます。そのため、ある意味、費用が高くて当たり前なのです。しかし、一方で、弁護士だからといって、「魔法使い」のように何でも解決できるわけではありませんし、対立構造が明確化するというデメリットもあります。 この点、ADRの機関は、程度の違いこそあれ、概ね利用しやすい料金設定になっています。法務大臣の認証を取得する際、料金に関してもチェックが入りますので、制度の趣旨に沿った良心価格に抑えられるわけです。

  • 便利
    裁判所での解決は、平日の午前9時~午後5時に限られます。そして、遠隔地に住んでいたとしても、実際に裁判所に足を運ぶ必要があります(一部、電話やテレビ会議システムを利用できる裁判所もありますが)。 一方、多くのADR機関は、平日の夜間や土日の利用が可能ですし、スカイプやzoomといったwebシステムを利用して遠隔地から話合いに参加することもできます。

  • 対立を深めない
    安い・早い・便利といった特徴があるADRですが、何よりも大きなメリットは、「むやみに対立構造を作らない」という点です。
    みなさん、想像してみてください。ある日、ポストに裁判所や法律事務所の名前が書かれた封筒が入っていたとします。開けてみると、堅苦しい言葉で裁判所に何らかの申立てがされたので出頭してほしいことや、弁護士が受任したので、今後は弁護士を介した交渉になること等が書かれています。まるで、自分が犯罪者扱いされたような気分になったり、多額の費用を払わされるのではないかと不安にかられたりします。
    そのため、多くの方は文書を握りしめ、「このようなものが送られてきた」といって法律事務所のドアを叩くことになります。そうなったら最後、双方が弁護士を依頼した上で裁判所で争うという「がっちりとした対立構造」が組まれることになります。
    しかし、これが当事者双方が合意の上、専門家の仲裁を利用するという選択をした場合はどうでしょうか。仲裁に入る専門家は、けして、どちらか一方の味方ではなくあくまで中立の立場です。また、誰かに決められるのではなく、決めるのは自分自身です。そういった意味で、ADRはむやみに争わず、穏やかな解決が可能なのです。

3 最後に

筆者は、離婚や相続といった親族間の問題を扱うADR機関を運営していますが、冒頭でお伝えしたとおり、中小企業の経営者のみなさまは、比較的こういった問題を抱えやすく、ご利用が増えてきています。

次回から離婚や相続のADRによる解決をコラムでご紹介していきたいと思います。次回以降は、無料相談の受付フォームも設置予定ですので、是非、ご活用ください。

小泉 道子

 著者
家族のためのADRセンター
センター長 小泉 道子

家庭裁判所で15年勤務した後、民間の仲裁機関「家族のためのADRセンター」を設立。離婚や相続といった親族問題を専門に取り扱っている。

モットーは、「親族問題こそ、穏やかに解決!」




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