インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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中小企業経営においては法律が絡む問題が発生することもあります。そんな法律問題の新しい問題解決の方法を、一般社団法人家族のためのADR推進協会 小泉道子代表理事にシリーズで解説いただきます。
前回のコラムでは、ADRという制度の概要をお伝えしましたが、今回は、もう少し話題を絞り、相続問題とADRの活用についてお伝えしたいと思います。
みなさまも「相続対策」という言葉を聞いたことがあると思いますが、残された相続人たちが争ったり、もしくは高額な相続税に困ったりしないよう、「対策」が求められるのが相続です。
特に、中小企業経営者のみなさまは、相続でもめやすい要素がたくさんあり、事前の対策がとても大切です。しかし、残念ながら、諸事情によりその対策が遅れがちになるのも、また中小企業経営者のみなさまの特徴なのです。
以下では、中小企業経営者の相続がなぜもめやすいのか、それなのにどうして対策が遅れがちになるのか、そして実際にトラブルになったときはどんな解決方法があるのか、についてお伝えしたいと思います。
中小企業経営者が亡くなると、サラリーマンだった人が亡くなったときに比べ、相続でトラブルになりやすい要素がいくつかあります。
まずは、その「トラブルポイント」について、事例を交えつつご紹介したいと思います。
町工場の社長であるAさん。従業員50人を抱え、24時間体制で大手自動車メーカーに卸す部品を作っています。妻は数年前に他界し、息子二人の協力を得ながら切り盛りしています。
Aさん、既に御年70歳。そろそろ、次の世代に受け継ぐ必要がありますが、何かと忙しく、相続対策は進まないままでした。
また、後継ぎ問題も悩みの種でした。自分の右腕として頑張っている人格者の長男。そして、ビジネス感覚に長けていて突破力のある二男。一体、どちらを後継ぎにすればいいのか、それも決められずにいました。
そんなある日、Aさんは突然の脳梗塞で倒れ、入院を余儀なくされました。Aさんは、このとき初めて、自分の亡き後のことを真剣に考えざるを得なくなり、慌てて遺言書を作成したのです。
そして、Aさんは、遺言書を書き上げた数日後、昏睡状態となり、そのまま意識が戻ることはありませんでした。
ここから、相続の開始です。親族が集まり、顧問弁護士よりAさんの遺言書の内容が発表されました。しかし、最後まで聞かないうちに、一部の親族がざわつき始めたのです。なぜなら、財産のほとんどを長男に相続させるという内容だったからです。
Aさんとしては、社員の人望もある長男に会社を任せたいと思い、そのような遺言書にしたのですが、もちろん、二男にも期待していました。しかし、準備不足がたたり、二男や二男を応援している他の親族への説明や根回しができていなかったのです。
何とか顧問弁護士がその場を収めましたが、後日、二男から、「せめて遺留分は相続したい」との申し入れがありました。(遺留分:一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の相続取得分のこと)
中小企業経営者が死亡した後、残された相続人たちが遺産分割でもめやすい理由として、不平等になりやすく、遺留分侵害になりやすいという事情があります。
なぜなら、次期社長となる相続人に集中的に事業用資産を相続させる必要があるため、他の相続人との相続財産の差が大きくなってしまうからです。
この事例の場合、法定相続人は長男と二男の2人だけです。そのため、法定相続分は2分の1ずつ、長男の遺留分は相続財産全体の4分の1です。Aさんの遺産の内容によっては、4分の1を二男に相続させると、経営が成り立たなくなってしまうことが十分に考えられます。
この二男の申入れを受け、顧問弁護士が頭を悩ませたのは次の2点についてです。
まずは、被相続財産の確定です。Aさんの遺言書には、「〇〇と△△は二男に、そのほかのすべての財産は長男に相続させる」と書かれていました。そのため、その他の部分について、いったいどんな財産がどこにあるのかを調査し、確定する必要があるのです。
しかし、Aさんの工場は、過去に経営難に見舞われており、幾度となくAさんが個人財産から補填したり、自宅を担保に入れて融資を受けていたりしたため、どこからどこまでがAさんの個人財産で相続の対象になるのか、線引きが難しかったのです。
先代が自分の財産を会社に貸し付けていたり、会社がお金を借りる際に自分の個人財産を担保として提供していることがあります。
本来、過去の帳簿さえ見れば、その区別がはっきり分かるはずなのですが、長きにわたって貸し借りが繰り返されていたり、経理がずさんだったりすると、相続財産確定の作業が大変になってしまいます。
そして、次に顧問弁護士を悩ませたのは自社株の相続についてです。
Aさんの会社は株式会社ですので、経営者となる長男に経営に十分な自社株を相続させる必要があります。加えて、Aさん名義の不動産や財産のうち、経営資産となっている財産も長男に相続させなければ経営が成り立ちません。
しかし、こういった分割案では、到底、二男の遺留分を確保できなかったのです。
中小企業経営者の相続の場合、自社株の相続がとても重要で、次期経営者となる相続人に、安定的な経営に必要な株数を相続させる必要があります。
しかし、未上場の株式は高く評価されがちなため、ほかの法定相続人の遺留分との関係で、問題が紛糾しがちです。
さて、様々な事情で問題が紛糾しそうなAさんの相続ですが、どんな解決方法があるのでしょうか。
恐らく、「相続争い」という言葉を聞いたとき、みなさまの頭に浮かぶのは、「弁護士」と「裁判所」ではないでしょうか。
まずは、それぞれの解決とADRによる解決を比較しながらご説明したいと思います。
著者
家族のためのADRセンター
センター長 小泉 道子
お客さまの声をお聞かせください。
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