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相続と並ぶ二大親族問題、「夫婦問題」にも活用。早くて便利なADR(裁判外紛争解決手続)

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中小企業経営においては法律が絡む問題が発生することもあります。そんな法律問題の新しい問題解決の方法を、一般社団法人家族のためのADR推進協会 小泉道子代表理事にシリーズで解説いただきます。


前回のコラムでは、ADR制度を利用した相続問題の解決についてご紹介いたしました。今回は、相続と並ぶ「二大親族問題」である、夫婦問題についてお伝えしたいと思います。


実は、中小企業経営者のみなさまは、夫婦問題を抱えやすい傾向にあります。筆者は、家庭裁判所勤務時代も含め、たくさんの離婚相談や離婚調停に立ち会ってきました。多忙であるがゆえに家庭がおろそかになる、ストレスフルな環境下、経済的・時間的余裕が出来ることにより浮気などの異性トラブルに見舞われる、といった中小企業経営者は少なくありません。また、夫との間で家事・育児の分担や経済的な自立に伴う対立などの悩みを抱える女性経営者も何人もいらっしゃいました。そして、いざ離婚となった際にこじれやすいのも、中小企業経営者ならではの特徴です。なぜこじれてしまうのか。事例でご紹介したいと思います。

離婚協議がこじれるポイント

経営者の夫と、夫の会社の経理を担当する妻。夫は、不動産会社を経営。地域密着型の小さな会社です。従業員は妻を含めて5人。
元々、口が立つ妻と経営者である夫は衝突しがちでしたが、数年前から夫婦関係が悪化。夫としては、会社でも家でも妻にがみがみ言われ、嫌になっていました。


あるとき、夫は、経営者の集まりで出会ったある女性と、男女関係に発展してしまいました。勘のいい妻は早々に気付き、夫婦は修羅場を迎えます。そのような生活に耐えきれず、夫は家を出て、女性と一緒に暮らすようになったのです。


夫は、早く離婚してすっきりしたい気持ちもありますが、会社としては、妻を必要としていました。妻は経理担当といえども、少ない社員の中で、実質的には営業以外のほとんどの事務を担っていたからです。

こじれポイント1 家族経営

中小企業経営者の方の中には、親族が経営に携わっていたり、業務の大切な部分を担っていることが多かったりします。


このような場合、妻は会社の根幹を担っていますので、いなくなると困る存在です。いくら私生活で関係が悪化しても、会社のことを考えると、なかなか関係を解消できません。また、こういった場合、妻が企業秘密を熟知していることがほとんどです。そのため、争って別れることのリスクがとても高いのです。

そうはいっても、関係が悪い相手が会社に居るのも居心地が悪く、夫は妻と離婚し、新しい経理担当を雇用する準備を始めました。


そんな矢先、妻から、「私、あなたとは離婚しませんから」と言い渡されたのです。というのも、妻としては、「離婚=失業」であり、たちまち生活に困る危険性があるからです。そういうことなら、夫の異性関係に目をつぶり、別居生活を継続するしかないと判断したのでした。

こじれポイント2・妻が離婚に同意しない

世間では、共働き夫婦が増えていますが、経営者の奥様は専業主婦の方が多かったりします。金銭的にも余裕があったり、家事・育児への夫の協力が得られず、家を守るしかないという事情があるからです。


そのため、専業主婦の奥様にとってみれば、離婚は「経済危機」以外の何物でもありません。世帯収入としては、世間一般より高かったりしますので、日頃の生活費や教育費が高額になっている上に、自分には生活力がないからです。一体どうやって生活を維持していくのか、子どもに十分な教育を受けさせてやれるのか、不安ばかりが先立つのです。


そのため、夫から離婚を切り出されても、経済的な不安から同意できず、長年別居生活を維持しているという夫婦も多いのが実情です。


また、事例のように、夫の会社で働いている妻も同様です。離婚は失業を意味し、たちまち生活の糧がなくなるのです。

そのような生活も2年目を迎え、妻もようやく離婚協議に応じるような素振りを見せるようになりました。しかし、離婚条件として財産分与の話を始めると、いきなり暗礁に乗り上げてしまいました。というのも、一体どの財産が分与対象になるのか、そこから意見が一致しないのです。

こじれポイント3・財産分与が複雑になる

中小企業経営者は、自分の財産と会社のお金が複雑に絡みあっているケースが多かったりします。会社に融資してもらうため、自宅に抵当権を設定している人や自己資金を会社に貸し付けている人もいるのではないでしょうか。逆に、本来、家計で賄うべきものを経費でおとしている人も少なくないでしょう。


そのほかにも、持ち株や自宅兼事務所の扱いなど、財産分与が複雑化する要素がたくさんあります。

各種解決手段の違い

このように複雑化した離婚協議は、なかなか夫婦だけで話合いがまとまりません。では、そのようなとき、誰に、どこに、相談すればいいのでしょうか。 


きっと、みなさんの頭に浮かぶのは、「弁護士」と「裁判所」だと思います。


次は、それぞれの解決とADRによる解決を比較してみましょう。

家庭裁判所での離婚調停・離婚裁判の特徴

離婚調停や離婚裁判のデメリットは、解決まで長い時間がかかることです。申立てから最終解決まで1年かかったという話も珍しくありません。

また、平日の日中に裁判所に出向かなければならなかったり、メールでのやりとりができないなど、不便な面もあります。

そして何より、「争いのステージ」になってしまうのが残念な点です。家裁の調停は、あくまで話合いで合意する場なのですが、やはり「裁判所」という名前がついているだけで、紛争性が高くなるのです。

そんな家庭裁判所ですが、費用が安いというメリットがあります。申立ての際、印紙や切手の予納で数千円かかりますが、その後は無料です(個人的には、この無料が協議を長引かせる原因ではないかと思っていますが。)。

弁護士の特徴

弁護士に依頼するメリットは、やはりその専門性の高さです。そして、自分の代理人として、交渉してくれますので、負担感はずいぶん減ります。


しかし、専門性の高さ故、費用も高額になります。離婚案件の場合、どんなに簡単な案件でも、裁判まで依頼すれば100万円程度かかります。分与財産の金額が高くなればなるほど、成功報酬も高くなりますので、弁護士費用だけで500万円以上かかったというような例もあります。


そして裁判所と同じく、「争いのステージ」になってしまうのも残念な点です。弁護士は、あくまでも依頼者の味方です。間に入って仲裁はしてくれません。

ADRによる解決

ADRの特徴は、「早い、安い、便利」です。裁判所のように、話合いは1か月に1回と決まっていませんので、当事者双方のニーズに応じたペースで進めることができます。また、ほとんどの認証ADR機関は、利用しやすい料金設定となっています。例えば、当センターの平均的な料金は弁護士費用の10分の1程度です。加えて、平日の夜間や土日の利用が可能だったり、現地に出向かなくても、スカイプで話し合いに参加できたりと、便利な点も多かったりします。


そして、何よりのメリットは、「むやみに争わない、穏やかな解決」が期待できる点です。


次回のコラムでは、このご夫婦がADRを利用して問題を解決していくプロセスをご紹介したいと思います。

小泉 道子

著者
家族のためのADRセンター
センター長 小泉 道子

家庭裁判所で15年勤務した後、民間の仲裁機関「家族のためのADRセンター」を設立。離婚や相続といった親族問題を専門に取り扱っている。 モットーは、「親族問題こそ、穏やかに解決!」



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