父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
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創業社長を支えながら、プロフェッショナル人材のシェアリングサービス(以下、プロシェアリングサービス)を活用し、外部顧問を招聘(しょうへい)――その打ち手は本業である運送・倉庫業の拡大、新事業展開というブレイクスルーにつながった。懸案だったビジネスの課題を解決した経緯を中一陸運株式会社 専務取締役の中川誠氏に聞く。
「『父が、ガン!?』――そんな連絡を受けたのは、新卒で入社した通販会社で2年目を迎えたばかりのときでした。京都でバリバリ働いていた私でしたが、一刻も早く父を支えなければと思い退社。故郷の群馬に戻ることにしました」
中川誠氏が中一陸運に入社したのは2004年のこと。同社は1975年、中川氏の父である中川一氏が創業した運送会社だ。誠氏に承継の意思はなかったが、「病魔に襲われている父を放ってはおけない」。そんな思いから家業を引き継ごうと決意の帰郷。しかし、現在の中川氏の名刺を拝見すると、肩書は「専務取締役」だ。さて、代表取締役は――?
「昭和時代に叩き上げで起業した世代だから、何だかんだ言っても、親父はタフなんですよ。ガンからカムバックし、今でも元気に社長として前線で働いています。中一陸運に入社した当時の私は、トラックとトレーラーの違いも分からなかったほど(笑)。取引先に研修生として入って、2年ほどみっちりと運輸・物流業界のイロハを学んできました」
入社当時を懐かしく振り返る中川氏。今では右腕として創業社長を頼もしく支えているが、テクノロジーの台頭や景気動向の興隆で、ビジネスはダイナミックに移り変わっていく。座していては先行きが読めないのは物流業界も同様だ。会社として「新たな一手」を打たなければ…そんな思いにかられ、中川氏はプロフェッショナル人材のマッチングサービスにアクセスしたという。新サービス活用の経緯を紹介する前に、まずは中一陸運の強み、さらに抱えていた経営課題を説明していただこう。
「ドライバーが車両を運転してモノを運び、売上を上げる――貨物自動車運送業というのは、極めてシンプルなビジネスです。そこでの中一陸運の強みは、重量物の輸送が得意ということです。船のエンジンや部品など、船舶関係のメーカーが主要な取引先になっていました。特殊な船舶部品の輸送に長けていたことから事業運営は順調で、年商20億円を達成していたほど。しかし、それは裏返せばリスクでもあります。売上の8割は船舶関係の1社に集中していました。船舶不況の折、リスクヘッジとして新規取引先の開拓、そして新規事業の開拓の必要性を痛感したのです」
背景には、あらゆる業界で進む深刻な人手不足もあった。トラックドライバーもその例に漏れず、2020年代後半には業界で約30万人が不足するという調査結果(※)もあるほどだ。貨物運送業界に軸足を置いていては消耗戦が避けられないことを見通し、中川氏は倉庫業への本格的な展開も視野に入れていたという。
「会社としても手持ちの倉庫がいくつかありましたから、それらを有効活用し、さらに設備投資を重ねて“倉庫業”をビジネスの軸の一つにできればとも考えていました。しかし、新規取引先の開拓と合わせて、社内にはノウハウがありません。業界に人脈を持った人材を外部から招聘するしかないと思い、いろいろと策を考えていたのです」
取引先の拡大であれば、まずは営業職の採用がカンフル剤になる。しかし、重量物運輸は専門性が高く、業界知識や商慣習なども特殊だ。辣腕の営業職でも、その経験や知識を生かせない場合が多いだろう。販路開拓には、その業界ならではの販売網、ロジスティクスを熟知している人材が望ましい。
各所に求人票を出したり、人材募集の情報を得るべくアンテナを張ったり、危機感を持って精力的に動いたことが功を奏した。メインバンクから群馬県人材マッチング事業の活用を勧められたところ、そこでプロシェアリングサービスがヒットしたのだ。
人材マッチング事業への応募を見て数社が情報を寄せてきた。そこで中川氏の目に留まったのが株式会社サーキュレーション。プロ人材の力を活用し、中小企業やスタートアップの経営課題解決を支援するベンチャー企業だ。
「紹介したい、と手を挙げてきたほとんどが、いわゆる一般的な人材紹介サービスでした。まずは『資本金や決算書などを開示して企業登録をお願いします』と言ってきます。サーキュレーションは『希望条件に沿った具体的な人材を紹介しましょう』ということをはじめに言ってくれたのが、好印象でした。私は面談のアポイントを入れ、翌日には東京へ。最適な方をご紹介いただき、社長の裁可を経てスピーディーに人材を登用することができたのです」
中川氏と社長がイメージしていたのは、キーパーソンになる社員の直接雇用。しかし、サーキュレーションから提示されたのは、プロ人材を活用した外部顧問という形態だった。想定外の提案に戸惑ったが、豊かなキャリアと人脈を持ち、業界にも精通している人材の登用に、外部顧問はベストな形態ということに気付かされたという。
「当社は自前主義の考えが強い会社で、ドライバーなどの社員でも縁故採用を重視して組織を作ってきました。外部コンサルタントと契約したものの、表面的なアドバイスばかりで経営課題の解決にはまったく意味がなかった、という苦い経験もあります。しかし、直接雇用というスタイルに縛られず、多様な人材を起用して成長する企業が増えているのも確か。時代の潮流に乗って柔軟に考えることも必要だ、とサーキュレーションのアドバイスに乗ったのが結果として大正解でした」
新規取引先開拓、倉庫事業の展開へのキーパーソンとして招聘した外部顧問。求めるレベルは高くなるのは当然だが、実力はいかほどのものだったのだろうか。
「マッチングしていただいたのは、国際物流の有力企業数社でキャリアを積み、国内の大手物流・倉庫会社のグループ会社で代表を務めていた方でした。物流業界に幅広い人脈も持っています。取引先の開拓、倉庫事業の新展開にはうってつけの人物だったのです」
重量物の輸送に長けた中一陸運の強みにフォーカスした顧問は、新取引先候補を次々にリストアップし、営業交渉をかける。さらに倉庫需要が高まっている業界動向をにらみ、自社サイトのアレンジを提案。倉庫スペースをアピールすることで強く訴求する。懸案だった経営課題は、驚異のスピード感で改善へと向かっていった。
「顧問がこれまで培ってきたキャリア、ネットワークを生かした販路開拓です。見込み客として数を挙げるのではなく、当社の強みである“特殊輸送”を求めている荷主とマッチングしてくれました。ですから、そのときだけのワンショット輸送ではなく、パートナーとして引き続き取り引きができています。倉庫業でも同様で、ホームページを見た会社から飛び込みでアクセスが続き、倉庫はフル稼働で回転し始めました」
運送業の別基軸として強化を図った倉庫業にもブレイクスルーが見えた。折しも、法律の規制緩和により、これまで禁止されていた“高速道路ICの近隣圏内”にも営業用倉庫が建てられるようになっていた。すぐさま社長が7,000坪という広大な敷地を確保。2020年3月の完成を目指し、新本社社屋とセットになった新倉庫の建設が進む。
「顧問の進言もあり『新大型倉庫はどんな荷物に特化し、どんな荷主にアピールするのか』という戦略を明確にできました。さらに、大型倉庫に向いた倉庫管理システムの導入もアシストしてくれています。顧問といっても人脈と経験だけではありません。口先のアドバイスだけではなく、自ら精力的に動くバイタリティも持っていらっしゃった。社内も、そして社長も、この顧問となら一緒に進んでいけるという確信を共有でき、社内の一体感にもつながっています」
倉庫がフル稼働すると輸送も増え、基軸ビジネスの運送業が活性化するという好循環が生まれる。新規取引先とのパートナーシップも順調で、売上は右肩上がりで推移してきた。さらに、中川氏にとっては想定外の展開もあった。顧問の示唆により、輸送業とはまったく別のジャンルから新事業がスタートしたのだ。
「古文書などの文化財や希少な文献などをスキャンし、デジタルデータとして納品する“デジタルアーカイブ事業”です。スタッフを採用して、提携企業で研修をさせることでノウハウを習得。倉庫の空きスペースにはスキャナーなどの各種機器をそろえました。中には、群馬県には2台しかないという超高精細大型スキャナーもあります。もう1台を持っているのは印刷会社ですから、なぜウチが持っているんだろう? とも思われそうですが(笑)」
ベンチャー企業が取り組みそうなデジタルアーカイブを運送会社が?――ビジネスアイデアだけが先行しているように思われるかもしれないが、そうではないという。
「古文書などのデジタル化には紙媒体の保管・輸送もセットになります。デジタルアーカイブ事業に着手する企業は今後も出てくるでしょうが、スキャンから輸送、保管までワンストップで手掛けられるところはそうないでしょう。特殊輸送を多く手掛けてきた当社のノウハウを横展開して強みにできますし、紙媒体の輸送・保管はニッチなので収益性も高い。本業である輸送業、倉庫業の収益拡大にもつながります」
顧問のアドバイスによって描かれた新事業戦略には、本業との巧みなシナジーが期待されている。
美術品のスキャニング・保管・輸送から画廊ビジネスへの展開、BtoBだけではなくBtoCを視野に入れて倉庫を貸しガレージとして提供…顧問と対話することで、新たな事業の種がいくつも生まれてくるという。エキサイティングな事業展開が構想されるが、中川氏が意識するのは「輸送・倉庫という本業の強みが生かせるビジネスでなければ意味がない」ということだ。物流・倉庫業界に知見を持つ顧問とがっちりタッグを組み、父が創業した運送会社をさらに盛り上げていく。
「顧問との契約も3年目に入り、マッチングいただいたサーキュレーションとのパートナーシップも良好です。事業が順調に拡大する中、今後は経理などバックオフィス業務の人材登用にも協力を仰げればと考えています。社長はバリバリ働いていますので、事業承継はまた次のフェーズになるかもしれません。しかし、デジタルアーカイブ事業などの新規事業を分社化し、シナジーを生かしながらの承継も相談していければ、と考えています。ビジネスの知見を磨きつつ、テクノロジーや新ビジネスの潮流に目を配り、経営者として成長していきたいですね」
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