父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
日本で家業に携わる経営者やその家族たちは約1000万人(※)いると推定されています。「家業エイド」は、その家業に関わる方たちが「継ぐ・継がない」に関わらず、同じような境遇の仲間と悩みや不安、喜びを共有し、お互いを助け合いながら、自分らしい家業との向き合い方のヒントを見つけていくコミュニティプラットフォームとして誕生しました。現在、約9000人のメンバーがオンライン上で自身の経営や事業承継、家族やキャリアなどの悩みや意見を交わしながら、自分自身が本当に望む未来に向けて一歩を踏み出しています。その中には業界の枠を超え、新たな取り組みへと発展しているケースもあります。今回は「家業エイド」を通し、大きな未来を描き始めた3人の家業持ちの方たちに運営の梅田と鈴木が話しをうかがいました。
※「家業エイド」による試算。
「家業エイド」に参加される方たちの動機やきっかけはさまざまです。広島市でスクールバッグの企画製造から修理までを行う老舗鞄メーカー「株式会社片岡商店」の片岡勧さんは、今でこそ家業に入り、同社が長年培ってきた優れた技術力で耐久性の高いサブバッグなどの開発に携わっていますが、「家業エイド」に参加した当時は家業を『継ぐ・継がない』で心は大きく揺れていました。
片岡さん(以下、片)――そのころの僕は『継ぐ・継がない』をめぐり、親とまともに会話ができなかったんです。そういった状態が僕だけの問題なのか、それとも一般的なことなのかも分からず、身近に相談できる人もいませんでした。そんなとき、たまたまFacebookで「家業エイド」の広告を目にし、家業を持つ人が集まっている場なら、何かヒントがあるかもしれないと思い、参加しました。
「家業エイド」のイベントなどに参加していく中、片岡さんは自身が抱える悩みは家業を持つ多くの人たちに共通するものであることに気づきました。
片――親子が対立するのはわが家だけではないと分かって安心しましたし、救われた気持ちになりました。その一方でいろいろな方からたくさんの刺激も受けました。僕よりも若い人たちがさまざまなリソースを導入して家業と向き合っている姿を見て、自分はフラフラしていていいのかなと思うようになったんです。
もやもやした気持ちを抱えたまま参加したイベントで、片岡さんはダンボール箱や販促什器を製造する「五十嵐製箱株式会社」の五十嵐寛之さんと出会いました。五十嵐さんはすでに兄とともに家業に入っていましたが、自分と同じように家業で働いている方と話しがしたいと気軽な気持ちで「家業エイド」に参加したといいます。そのイベントで五十嵐さんと『家族と働く』や『兄弟と働く』をテーマに意見を交わした片岡さんは、その後、「うちの家族会議に入ってもらえませんか?」と五十嵐さんに相談しました。
片――これまでも家族間で話し合いの場は設けていましたが、どうしても感情が高ぶって、家族会議は紛糾しがちでした。当事者だけで家族会議を行うことに限界を感じていたとき、もしかしたら、家業の文脈を知っている第三者に入ってもらった方がスムーズに進むのかもしれないと思ったんです。
五十嵐さん(以下、五)――私も同じような立場だったので、片岡さんの悩みはすっと理解できましたし、何より家業の悩みや課題を抱えている仲間の役に立つならと、ファシリテーターとして片岡家の家族会議に入らせていただきました。
片――わが家の場合、家族経営だけでなく、兄弟経営も大事なテーマの一つでした。だから、五十嵐さんが『きちんとルールを決めて準備することが大事』だとご自身の経験からアドバイスしてくれて、今後、兄弟経営を検討する上でもすごく参考になりました。また、五十嵐さんが理論的に説明してくれたことでスムーズに議論できました。
五――私の方も勉強させていただくことが多かったですね。第三者が家族会議に入ることで、話し合いが前に進むのはよくあることです。だからこそ、第三者を交えて家族会議を行うことがとても大事だと考えています。
片――五十嵐さんから、家業は「社長と従業員」と「親と子ども」の立場が混在するので、その切り替えが重要だといわれました。家業に入った今、アドバイス通りにできているかというと難しいのですが(笑)、親子が衝突する理由が分かったのですごく勉強になりました。
五――普通なら“家族”が最優先となるべきところですが、われわれは家族と仕事が一緒の環境で働いているので、“仕事”のこともおろそかにできないんです。どちらも大事なことで、その両方のことを決める場が家族会議なのですが、そのテーブルにつくことさえ難しいと悩んでいる方はたくさんいます。
五十嵐さんを交えた家族会議を経て、家業を継ぐことを決意した片岡さん。しかし、ただ継ぐのではなく、ご自身がもっとも得意とするドローンを事業の一つに組み入れました。
鈴――老舗鞄メーカーにドローンという異色の展開に、周りの方たちは驚いたのではないですか?
片――一番驚いているのは父でしょうね(笑)。でも、それにも理由があって。実は家業に入る前、僕はある取引先の縫製工場で勉強させていただいたのですが、そこがとても大変な現場で。斜陽産業でもあったので、そこに何かスポットライトを当てられないかと思ったとき、僕が得意とするドローンで撮影したら格好よく見えるのではないかと思ったんです。それが「FPVマイクロドローン空撮事業」を立ち上げたきっかけでした。
その縫製工場の未来は、片岡さんにとっても他人ごとではなかったといいます。なぜなら、スクールバッグの製造をメインとする株式会社片岡商店にとって、この先、子どもの数が減少していく未来は決して明るいものではないからです。
片――この先もずっと同じことを続けていてもだめだろうし、何かを結び付けた方が伸びしろのきっかけを掴めると思ったんです。その何かが自分の好きなものだったら、能動的に取り組めると思って、まずその縫製工場にドローンを飛ばさせてもらって映像を撮りました。その映像を「家業エイド」の運営・梅田さんに見てもらい、「ほかの家業でも撮影できないか」と相談したんです。
梅田(以下、梅)――縫製されている方を上から撮影したり、お寺の仏像の周りを撮影したり。その映像には、人間が見たことのない風景が映っていて、これはほかの工場を撮影しても面白いかもと思ったんですよね。
片――そこで当時から会社の発信に力を入れていた「側島製罐株式会社」の石川貴也さんを紹介してもらいました。
側島製罐株式会社は、愛知県海部郡でお菓子や海苔、乾物などを入れる缶を作り続けている老舗メーカーです。石川さんは6代目として家業を承継する予定ですが、家業に入った当時は周りに相談できる人もなく、孤独だったといいます。
石川さん(以下、石)――もちろん、当時から家業承継者を対象としたコミュニティや団体はたくさんありましたけど、僕は「家業エイド」の『家業は継ぐだけではない、いろいろな関わり方があっていい』という寛容さがとてもいいなと思って参加しました。家業を継ぐ前の人たちを対象とした団体というのも新鮮でしたね。
片岡さんからドローンによる工場撮影の相談を受けた石川さん。思いがけない話でしたが、ちょうど自社のホームページのリニューアルを検討していたそうで、コンテンツの一つとして工場見学が入れられないかと社内で検討していたタイミングでした。
石――だから、最初に話を聞いて『面白そう!』と思いました(笑)。でも、実はその前にネットで片岡さんが撮影した縫製工場の映像は見ていたんです。こんな素敵な動画があるんだと思っていたので、今回、その映像を撮った方と一緒にできるという期待感はありました。
実際に撮影された映像作品『SOBAJIMA VIRTUAL FACTORY TOUR』は、工場で従業員の方たちが働く様子や製造工程を映す傍ら、プレス機のすき間を通り抜けるシーンなども盛り込まれ、マイクロドローンならではの臨場感あふれる作品に仕上がっています。
石――ゴールまでノーミスで一気に撮るので、片岡さんのテクニックがなければ難しかっただろうなと思います。社員たちは、最初こそ『ドローン撮影?』と戸惑っていましたが、工場にドローンが飛び始めたら『すごい!』と盛り上がっていました。
異色のコラボレーションで実現した映像作品は高い評価を受け、昨年、「Drone Movie Contest 2022」の審査員特別賞を受賞という快挙を成し遂げました。
片――一昨年、縫製工場の映像でファイナリストまで残ったのですが、受賞まで届かなかったんです。そのときに『もう一つ、圧倒的な何かがあれば』というフィードバッグがあって、それが何かをずっと考えていて、もしかしたら、誰かと一緒に協力してやることなのではないかと思ったんです。だから、今回、石川さんや社員の方たちに協力してもらって、僕自身、すごく手応えを感じていました。
石――コンテストに応募する話は事前に聞いていましたから、ファイナリストに残り、受賞したと聞いたときは、とても嬉しかったですね。審査員の方から『会社のスタッフの皆さんと一丸になって撮影されているのが伝わってきた』とコメントをいただいて、社員たちも喜んでいました。
五――私も映像を拝見しましたが、あれは編集も素晴らしかったですよね。働いている社員の方たちの声も入っていて、素敵だなと思いました。
石――映像は弊社のホームページで見ることができるのですが、それを見たお客さまや就職希望の方からとても大きな反響をいただいています。何より楽しんでくださる方が増えて、それがとても嬉しいですね。
五――会社にとって取引や採用だけではなく、ほかにもたくさんの効果があったんだろうなと思いますね。社員の方たちも、自分の働く工場がこんな格好いい映像になったことで気持ちも上がったと思いますし、とてもいい取り組みですよね。
鈴――私たち運営側は「場」を提供しているだけですが、このように「家業エイド」を通して新しいアイデアや事業が生まれることに感動しますね。
「家業エイド」には若い人たちだけではなく、自分の子どもや孫の世代が何を考えているのか知りたいと参加されている60、70代の方たちもいます。年齢も地域も職種も異なる、多様な人たちが集まる場だからこそ、片岡さんと石川さんのコラボレーションも実現しました。
五――「家業エイド」のいいところは、家業に関わるすべての方が対象ということです。今は後継者が注目されがちですが、働く環境を一生懸命整えているのは、実は周りの家族だったりします。そして、そういう人たちも悩んでいるし、考えていることもあるし、そういう人たちを応援したいと思っている方もたくさんいるんです。だから、家業を持っている人はぜひ「家業エイド」に参加して、自分の悩みを話してほしいです。一人で悩みを抱えてしまうと、どうしてもネガティブな方向に行ってしまいがちですが、多くの方も同じように悩んでいるのだと気づくと、その瞬間、視野が広がると思います。だから、「家業エイド」で多くの方と話し合える機会があることは嬉しいですね。
片――「家業エイド」は友達感覚で入れるのもいいところですよね。
石――横のつながりもいいんですよ。それぞれ立場が近いから、僕らの気持ちを分かってくれる。そこで問題が解決しなくてもいいんです。わかるわかると共感してくれるだけで全然違いますから。
鈴――家業は継ぐ方がいてこそ、その価値を世の中に発信し続けられますが、実はその周りで支えてくれる家族たちも家業というアセットにアクセスはできるんです。そういう人たちがもっともっと増えていったら、「家業エイド」はさらに面白いコミュニティになっていくと思います。
五――そうですね、「家業エイド」は家業に関わるすべての方をフォローしている唯一のコミュニティですから、いろいろな家業を持つ方たちにどんどん入ってきてほしいですね。
梅――「家業エイド」が目指すのは、いつもそこにあるインフラのような存在です。日本の10年後、20年後に家業があったら、その土地の素晴らしい文化や風景、美味しい物が残っていきます。それは大企業だけではできないことなので、そういった物がこの先もずっと続いていくような取り組みが「家業エイド」でできたらいいなと思いますね。
「家業エイド」を通じてつながった片岡さんと五十嵐さんと石川さん。昨年は、全国の工場の自社商品開発を支援する「町工場プロダクツ」でも共創の機会を得ました。今後も3人で新たなチャレンジに挑む可能性は十分に考えられます。
片――僕ら、偶然にも『物を運ぶ道具』を作っているんですよね。段ボール、缶、バッグと。その視点で何か結びついたら面白いなぁと思います。
五――まずは企画会議から始めましょうか(笑)。
鈴――2022年10月、「家業エイド」は家業を持つ人たちが抱えている悩みや想いをつぶやけるSNSサービス『家業エイドTALK』をリリースしました。家業を軸に悩みを相談したり、体験談を聞いたりと、これまで以上に家業を持つ方たちが地域や業界、年齢の枠を超えてつながれる機会を提供しています。今現在、家業を『継ぐ・継がない』で悩んでいる方、家業との関わり方を誰にも相談できずに悩んでいる方は、この機会に「家業エイド」で最初の一歩を踏み出してみてください。参加メンバーたちと交流していくことで、新たな家業の関わり方が見えてくるかもしれません。今回ご紹介した片岡さんや石川さん、五十嵐さんをはじめとする多くのメンバーたちが、皆さんとの出会いと対話の機会を待っています。
対談の様子は動画でもご覧いただけます。
エヌエヌ生命保険株式会社 開発事業部 Sparklab
梅田祐介
家業を持つ人たちが集まるオンラインプラットフォーム「家業エイド」の創設者の1人。祖母は靴屋、祖父は日本家屋の内装業、親戚はバイク屋やブドウ農園と家業に関わりが深い環境で育つ。自身の経験もあり、家業にかかわる全ての人が「継ぐ・継がない」の2択にとらわれず、 家業と自由な関わり方ができるようにしたいという思いから家業エイドを立ち上げた。
エヌエヌ生命保険株式会社 開発事業部 Sparklab
鈴木智絵
北欧スウェーデンで3年間現地法人のSNSマーケターを経て、2022年より 「Sparklab」に参画。「家業エイド」でセールス&マーケティングエリアでSNS運営や広報PRを担当。実家は住宅設備関連の家業持ち。
お客さまの声をお聞かせください。
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