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事業承継

「ミミズの力で世界共通課題の解決を目指す」
夢は、ミミズで飢餓問題に貢献すること
ワキ製薬株式会社 代表取締役社長 脇本 真之介氏

  • 40-50代
  • 卸売小売業
  • 製造業
  • 近畿
  • 後継者
  • 人事

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ワキ製薬株式会社 代表取締役社長 脇本真之介氏

1882年創業のワキ製薬は、置き薬(家庭用配置薬)の販売から始まり、世界で初めてミミズの酵素をサプリメント化するのに成功し、市場を作ってきた製薬メーカーだ。しかし特許切れに伴い、数社が市場参入。市場の分散によって売上低下、パートナー企業の離反など次々と危機が押し寄せ、あわや倒産かという噂まで流れた。これを機に5代目を継いだ脇本真之介氏は、数年を費やし独自のミミズを開発し、新たな特許を取得。売り上げも従業員数も10倍に成長させている。

特許が切れ、離反していくパートナーと取引先
ゼロから新しい国産ミミズを作ろうと決意

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ワキ製薬は、ミミズ配合の総合感冒薬「みみとん」の製造販売を始めてから70年以上もミミズの研究開発を続けている。

「もともと漢方では、ミミズの粉末が熱冷ましとして用いられてきました。体にやさしく、ゆっくりと効くのです」

 

ある日3代目社長であった祖父が道で干からびているミミズを見て、内臓がないことに気づき、たんぱく質を溶かす成分があるのではないかと、新たな研究を始めた。

「祖父は薬剤師でしたので、医薬品として世に出したいと開発を続けましたが、それには時間もお金も膨大にかかりました。そこで4代目の父がサプリメントに切り替えて、発売したのです」

 

このミミズ由来のサプリメント「龍心」は、血栓を溶解する作用が期待され、脳梗塞や心筋梗塞、高血圧、糖尿病を気にする人に口コミで広がり、置き薬の販路で売れていった。

 

2008年、ワキ製薬が出資して創業したパートナー企業が所有するミミズ粉末の製造技術特許が切れてしまった。すると中国製の安価なミミズや、他企業が類似品の製造を始め、市場に参入してきた。それまで独占状態だった市場が、一気に分散し、売上が低下した。

「競争をするために、ミミズサプリメントの販売を委託していた総代理店からは値下げを要求されて、更に売り上げは下がりました。その上、原料を作るパートナー企業とは全量買い取りの契約を結んでいたので、わが社の市場は減少しているのに、原料の入荷量は変わりません。資金繰りが一気に悪化。パートナー会社へ、一時的に取引量を減らしてほしいと頼むと、供給を止められ、総代理店へ直接、原料を卸し始めました。つまり、ミミズはなくなり、市場も消えていったのです」

 

追い込まれた脇本氏は、父の記憶を頼りに一番初めにミミズを譲ってくれた鹿児島の農家を名前だけを頼りに探し当てた。

「父や社員の一部は中国産でやろうと言ったのですが、それだけは絶対に嫌でした。祖父の見つけたミミズで再出発したかったのです」

父の功績を守りたい
泥をかぶるつもりで受けた事業承継

ミミズミミズ

そのころ、業界では「ワキ製薬倒産」のうわさが流れ、社長である父も「倒産しかない」と思い極めていた。

「売り上げの8割をパートナーだった会社に奪われ、借金が13億円ありました。家族の貯金を崩したり、保険を解約したり、持っているものを全部お金に換えても10日置きに返済の期限がくるんです」

 

父の消沈ぶりを見かねた脇本氏は、事業承継を申し出た。

「もし自分の代で倒産したら、世間は息子がヘマをしたと思うでしょう?そうすれば、父がやってきた数々のことは守れるのかなと思ったんです」

 

そこからはなりふり構わず、取引先に先払いをお願いしたり、原料や資材を納入してくれる取引会社には、手紙を書いて価格の引き下げをお願いしたりして、資金の流出をなんとか減らそうと工夫した。

「やれることは全部やりました。父と私の給料を半年ゼロにして、役員だった家族には辞めてもらいました。今まで廃棄していたゴミも分別してリサイクル業者に出して1000円でもお金に換えました」

 

その状況下でも、社員の解雇だけは絶対にしないと決めていた。

「社員の生活は守る、ただボーナスは我慢してほしいと伝えました」

脇本氏が社長になって取り組んだことはまだある。

「全員の役職を1年間、リセットしたんです。役職など気にせず、本気で仕事に取り組んでほしかったから。その1年間の成果によって、改めて役職を決めたいと伝えました」

 

業績への不安と相まって、この激しい会社の変化についていけず、1/3の社員が退職していった。

「残ってくれた社員には、自分一人では何もできないから、助けて欲しいという話をしました。すると土日も関係なく、一緒に考えたり、営業してくれる社員が残ってくれたんです」

 

人が減った分、夜中や休日に工場を稼働させたり、新規の営業開拓に励むあまりに、日付が変わってから帰社する社員もいた。そういう頼もしい社員たちと共に、試行錯誤を重ね、新たなミミズ粉末の開発に全員で取り組んだ。開発をスタートしてから安定供給できるようになるまでに4年の月日が流れた。

社員との関係をよくするために
思いついたことは全部やる

脇本真之介氏

脇本氏は、社内改革の取り組みを次々に手掛けた。

「最初はあいさつも掃除もしなかった社員が多かったが、しつこく『おはよう』『お疲れさま』と何度も声をかけ、掃除も『さあ、やろう』とみんなを巻き込んでいきました」

それ以前は、掃除は社長である父親が黙々と一人でやっていた。

 

会社と従業員の関係をもっと良いものにするために、月1回の勉強会も始めた。

「社員全員を対象にした社長塾です。なぜ仕事をするのか、役職ってなんだから始まって、給与明細書の見方、社会保険、雇用保険って何?などの話、就業規則の見方や雇用契約の話などをしました」

 

最初は3人だった参加者が、「なんか社長が面白い話をするみたい」と徐々に参加者が増えていった。

「今では、決算書の報告会なども社員主導でやってくれます。ここまでくるのに9年かかりました」

 

人として生きていくためにどう考えるかなど、テーマも成長している。

「最初、社員に言ったんです。こんなつぶれそうな会社をゼロからスタートさせることほど面白いことはない。みんなで盛り上げて、逆にワキ製薬すごいなと言われたら楽しいやん!って。だから今も毎日面白いことばかりです」

 

最近では、社員がお互いにありがとうをカードで送り合う「サンクスツリー」という取り組みを始めた。

「全社員と毎年1回の面談をしています。そこで会社が好きかどうかを聞くんです。今75%の社員が会社を好きだと言ってくれています。でもまだまだですね。100%じゃないとダメなんです」

嫌いとはっきり言ってくれる社員も貴重な存在だ。そうやって意見がいいやすい職場風土を意識して作っている。

 

そして業績を改善して、内部留保を増やし、利益を社員に還元していきたい。

「コロナの予防努力で風邪薬の売り上げが減ったり、海外流通が止まったりしましたが、それでも給料や賞与を同じように支払えるのは、社員のみなさんの日々の努力が内部留保を積み上げてきてくれたからです」

ミミズの昆虫食で飢餓をなくす
秘められたその力は無限大

ワキ製薬株式会社ワキ製薬株式会社

社長に就任した年は、赤字が1億2000万円だったが、2年目には黒字化することができた。

「倒産という噂があった時期に原材料を値下げして助けていただいた取引会社さんとは、ずっとお付き合いしていくと思います。それができたのも父が社長の時に『お互いにもうけていきましょう』という良い関係性を築いてくれていたから。本当に父にも取引先のみなさんにも助けていただいています」

 

わからないことがあると教えを請いに面識がなくても飛び込みで会いに行く。

「ミミズを持って帰ってきたのはいいけど、育て方がわからないので、製紙処分や残飯処理にミミズを活用している大企業に電話して助けてもらいました。20代の頃からミミズの研究に力添えをもらった長岡工業高等専門学校の赤澤真一氏には、大手製菓メーカーの、真空パックに用いる高圧の技術がミミズの殺菌とたんぱく質濃度を高めるのではないかとアドバイスをもらい、一緒に専用機械の開発と特許取得へ向けての協力をいただきました」

 

脇本氏は、諦めるのが大嫌いだ。

「ある食品会社が野菜カスをミミズで処理しているという話を聞いて、会いに行きました。そのときに『倒産しかけです』と話したら、ナンバー2の方が『自分から川に飛び込んだやつは溺れないから大丈夫だよ』と言ってくださったんです。それからなんだか自信をもてるようになりました」

 

自分もそうやって数多くの人に助けてもらってきたので、未来の経営者となる若い後継者たちに自分の経験を伝えて何か助けになれればと「アトツギU34」のメンター役を引き受けている。

「彼らに言いたいのは、嫌々継いでもいいけれど、継いだら家業を好きにならなくてはいけないということ。やっぱり好きじゃないとアイデアも浮かばないし、行動もできない。まずは目の前の仕事を一生懸命に取り組んで、楽しく感じることから始まるんですよ」

 

現在、世界9か国に医薬品やサプリメントを供給しているが、今後はもっと視野を広げて世界に向けた昆虫食に取り組みたいと考えている。

「ミミズのたんぱく質を活用して、地球上の飢餓をなくしたいんです。ミミズだったら低コストで実現できますから。実はまだミミズのもつ力って全部解明されてはいないんですよ」

 

氷河期を乗り越え、姿かたちを変えずに生きるミミズは、小さい体に大きな可能性を秘めているという。

「まだ見ぬ優れた成分を発掘して、今は認知症の研究にも取り組んでいます」



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