インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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皆さんは「自治体ビジネス」という言葉をご存知でしょうか。
自治体ビジネスとは、民間企業が自治体をクライアントとして製品を納入したり、サービスを受注するビジネスのこと。
多くの人は自治体からの仕事と聞くと、どうしても建設や道路工事などをイメージしてしまいがちです。また、「どうせ大手企業との出来レースばかりだろう」、そんな印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、それは思い違いで、毎年驚くほど多くの仕事が中小企業に発注されています。
全体の市場規模は人口10万人以上の自治体だけで毎年度14兆円余、うち中小零細企業への発注が75%にも上ります(図表1)。自治体(ローカル・ガバメント、略してLG)ビジネス市場は、B to B、B to Cに次ぐ第三の市場「B to LG市場」として、全国で多くの中小企業が活躍しているのです。
では、実際はどんな仕事が自治体から中小企業へ発注されているのでしょうか。
その前提として皆さんに知っていただきたいのは、「自治体が民間企業へ仕事を発注する理由」。
自治体組織は、様々な分野の「地域課題(困りごと)」に対処し、地域住民の安全・安心な暮らしや快適な生活を支えるのが主な仕事です。
「もっと商売を繁盛させたい、販路を開拓したい」のは企業の困りごとです。「子育てと仕事の両立が大変」というのはお母さんの困りごと、シニア層なら「介護のサポートを受けたい」…。
こうした多種多様な困りごとは、社会の急激な変化でますます多様化・細分化し、増加する一方です。
ところが、続出する新たな困りごとを解決する技術やノウハウは、自治体の中にはありません。また、職員が自前でできるものがあっても、職員の人件費を考えると民間企業に発注した方が同じコストでもパフォーマンスが高かったりします。
そこで自治体は、地域の住民や企業から預かった税を元手として、多くの領域で民間企業に仕事を委託したり製品をまとめて発注したりするわけです。
では、自治体は中小企業にどんな仕事を発注したり製品を買ったりしているのでしょうか。
ほんの一例をご紹介しましょう(図表2)。
自治体ビジネスを経験したことのない方にとっては、「どんなメリットがあるのか」「注意すべき点は何か」、この辺りは気になるところではないでしょうか。
自治体ビジネスには、どのような企業にも共通するメリットと留意点があります(図表3)。
メリットとしてまず大きいのは、一度実績ができるとその後の受注が安定すること。自治体はリスクを嫌うため、一度でも業務を経験した企業を信頼してくれます。
入金遅滞・未回収がないのも魅力の一つ。法律・条例・規則に沿って発注が行われるため決められた期日に必ず入金されます。
そして、民間ビジネスにはない醍醐味は「利益の創造と地域貢献の両立」。自治体ビジネスの前提は課題の解決です。どのような案件であれ、自治体が発注する仕事は地域住民の助けになるものばかり。売上にも人助けにもなる自治体ビジネスは、「自社よし・発注者よし・地域社会よし」のまさしく「三方よし」といえます。社会貢献への志と信念を掲げる中小企業経営者の皆さんにとって、まさに自社の矜恃(きょうじ)を示せるビジネスといえるのではないでしょうか。
一方、気になる留意点は、まずキャッシュフロー。案件を受注しても入金が年度末になることもあります。しかし、昨今では企業に配慮した入金期日を設定する自治体も多くなりました。
また、民間ビジネスでは当たり前の人脈を使った営業が、ともすれば法令違反になりかねないのも自治体ビジネスで気をつけたいところです。市長や職員に接待を持ちかけたり、地方議員に仕事の口利きを依頼することは法令違反。露呈した場合は、指名停止処分(民間の世界でいうところの出入り禁止)になってしまうこともあります。
商談の結果、即受注にならないのも自治体ビジネスの特徴であり留意点です。自治体ビジネスに投じられる予算は、原則として前年度に確保されるもの。逆にいうと、予算が確保されていない案件はすぐに受注にはなりません。自治体ビジネスの経験が浅い民間企業は要注意です。
自治体が企業を選定する主な方法には、①競争入札、②企画提案(プロポーザル/図表3※参照)、③総合評価落札方式(①と②の合わせ技のような方法)などがあります。
では、自治体の仕事を受注するためには、どうしたらよいのでしょうか。方法は2つあります。
1つは上記の競争入札・プロポーザルに参加することです。自治体ビジネス初心者の方は、公募される案件の中から自社に合った案件を見つけてチャレンジするのがよいでしょう。
もう1つは直接自治体に訪問し、自社の製品やサービスの提案営業をして仕事を創っていく方法。ただし、民間企業への営業活動とは大きく異なり、4月1日から翌年3月31日を1サイクルとした「決まった進め方と時期」があります。
具体的には次の7つのフェーズ(段階)を踏んで進めていくのですが、受注までには時間がかかります(図表4)。
新型コロナウイルス感染拡大で民間市場が冷え込む中、景気の波を受けにくい自治体ビジネス市場が注目されています。特に2020年度は国から3兆円規模の地方創生臨時交付金、各自治体の大規模補正予算など、かつてない規模の予算が自治体ビジネス市場に投じられており、新規参入のビジネスチャンスが広がっています。
また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、飲食店や観光業が窮地に陥ったり、急速なテレワーク・オンライン化への対応、感染対策に伴う新たな生活様式への切り替えが迫られるなど、地域社会の様々な領域に「新たな困りごと」が生まれています。
こうした地域の新たな課題を理解できるのは、地域密着で事業を営んできた中小企業であればこそ。自社の製品やサービスの強みを活かし、官民一体となって地域課題解決に取り組む自治体ビジネスは、皆さんの事業の新たな可能性を開く契機となることでしょう。
【著者】
古田 智子(ふるた ともこ)
株式会社LGブレイクスルー代表取締役
慶應大学文学部卒業後、総合コンサルティング会社入社。幅広い領域の官公庁受託業務に携わる。2013年2月、 (株)LGブレイクスルー創業。官公庁ビジネスの受注率を高めるコンサル事業を展開。企業・自治体への研修・コンサル実績多数。著書に『地方自治体に営業に行こう!!』(実業之日本社)、『民間企業が自治体から仕事を受注する方法』(日本実業出版社)がある。
この記事に記載されている法令や制度などは2020年6月作成時のものです。
法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。
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