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中小企業経営者の資産運用① 余剰資金を資産運用に活用する理由

  • 税制・財務
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この記事は5分で読めます

この記事のポイント

  • ① 資産形成とは資産を貯めたいという『目的』、資産運用とは今ある資産をさらに増やす『手段』
  • ② 余剰資金の使い途としては、(1)将来に向けての再投資、(2)会社の財務状況の改善、(3)法人口座での資産運用、の3つがある
  • ③ 資産運用が重要な理由は、(1) 事業に万が一のことがあったときの備えが必要、(2)インフレによる資産の目減りの防止、(3)安定収益(固定収益)の構築、(4)個人で運用する場合より税務上有利な面あり

1 資産形成と資産運用の違い

『資産形成』と『資産運用』は、ともに資産を増やす言葉ですが、意味するところはまったく異なります。

まず、資産形成とは、資産をゼロから築いていくことで、資産を貯めたいという『目的』なのです。

一方、資産運用とは、資産をさらに増やしていくことで、今ある資産をさらに増やす『手段』なのです。

2 余剰資金の使い途

 会社として、余剰資金の使い途としては、以下のようなものがあります。

  • (1) 将来に向けての再投資
  • (2) 会社の財務状況の改善
  • (3) 法人口座での資産運用

(1) 将来に向けての再投資

まず、将来に向けての再投資があります。

将来に向けて再投資することにより、中長期にわたって利益の拡大が可能となり、安定的な成長が期待できます。

また、将来に向けての再投資は、減価償却費の損金算入、税額控除など税務的にも有利な面があり、キャッシュアウトを伴うものの、一方で税額等が減少するため、効率の良い余剰資金の使い途だといえるでしょう。

ただし、将来的な利益の拡大につながらない可能性もあるため、将来に向けた再投資は、採算性の検討などを慎重に行い、投機や浪費にならないように留意しましょう。

(2) 会社の財務状況の改善

次に、会社の財務状況の改善があります。

例えば、借入金が多い場合に、余剰資金で借入金を返済して会社の財政状態を改善したり、仕入債務が多い場合に、支払いサイトを短くすることで仕入値を引き下げて経営成績を改善することなどが考えられます。

これによって、自己資本比率が高くなり、財務的には安全性が高まります。

しかしながら、借入金の返済は金融機関との関係を悪化させてしまうこともあり、借入金を減らしたとしても余剰資金が少なすぎると、将来に向けて再投資がしにくくなる可能性があり、また、仕入債務を減らすと運転資金(売上債権+棚卸資産-仕入債務)が増えてしまい、売上が急激に増加した場合にお金が足りなくなる可能性が出てきますので、一時的な財務状況の改善にならないようにしましょう。

(3) 法人口座での資産運用

最後に、法人口座での資産運用があります。

資産運用というと個人での資産運用をイメージされる方が多いかもしれませんが、法人口座でも資産運用は可能なのです。

例えば、賃貸用不動産、株式、投資信託、貯蓄型の保険、預金などが挙げられます。

3 なぜ資産運用が重要なのか

なぜ、資産運用が重要なのでしょうか?

これは、以下のようなことが、考えられます。

  • (1) 事業に万が一のことがあったときの備えが必要
  • (2) インフレによる資産の目減りの防止
  • (3) 安定収益(固定収益)の構築
  • (4) 個人で運用する場合より税務上有利な面あり

(1) 事業に万が一のことがあったときの備えが必要

一つ目は、事業に万が一のことがあったときの備えが必要であるということです。

会社は、事業を続けていれば、良いときも悪いときもあります。

例えば、経営者が病気等で不在になると、売上が激減し、当面の固定費の支払いが現預金だけでは足りなくなる可能性があります。

そのようなときに、資産運用をしていれば、すぐに金融機関から借入れが行えなくても、資産運用によって得られる収益、資産の売却や解約、運用資産を担保にした一時的な借入れなどにより、その場をしのぐことができる場合があります。

(2) インフレによる資産の目減りの防止

二つ目は、インフレによる資産の目減りの防止が可能であるということです。

例えば、最近は預金金利が上昇傾向にはありますが、物価がそれ以上に上昇すると、預金の実質的価値は目減りすることになります。

このような場合に、物価上昇分以上の利回りがある資産運用を行ったり、外貨建てのもので資産運用を行ったりすることで、インフレによる資産の目減りの防止が可能となります。

もちろん、元本割れを起こしたり、期待利回りを達成できなかったり、為替相場の変動などにより資産が目減りする可能性もありますので、『長期・積立・分散』を意識した投資を行いましょう。

(3) 安定収益(固定収益)の構築

三つ目は、安定収益を構築できるということです。

従来から、費用については、変動費と固定費に分けて考えている会社もあるかと思います。

一方、収益についても、近年、サブスクリプション(いわゆるサブスク)という言葉が一般的に使われるようになったことは、以前よりは認識されるようになってきている証しだと思われますが、これは固定収益というものが重要視されるようになっているのではないかと感じます。

この安定収益(固定収益)を構築できるのが、例えば、賃貸不動産、投資信託などによる資産運用でしょう。

(4) 個人で運用する場合より税務上有利な面あり

四つ目は、個人で運用する場合より税務上有利な面があるということです。

資産運用の注意点は、必ずしも元本保証ではないため、当然ですが運用に失敗した場合には損失が発生するリスクがあるということです。

法人口座で資産運用する場合、所得税のように所得は区分されませんので、資産運用でマイナスが生じたとしても、事業でそれ以上のプラスが生じていれば通算されますし、所得がマイナスになれば、最長10年間、繰り越しができます。

上述のように、資産運用は重要ですので、余剰資金の活用も考えていきましょう。

【著者】

國村 年(くにむら みのる)

公認会計士・税理士・香川大学大学院客員教授・日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格者・戦略MG インストラクター


関西学院大学経済学部卒業。1996年から監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、2007年から小谷野公認会計士事務所に勤務したのち、2011年に香川県高松市で國村公認会計士事務所開業。贈与・相続、事業承継、M&A・組織再編、棚卸のコンサルティングを中心に行っている。著書・執筆は、『誰も教えてくれなかった実地棚卸の実務Q&A』(中央経済社)など多数ある。

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