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中小企業経営者の資産形成 資産形成が必要な理由と実施時のポイント

  • 税制・財務
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この記事は8分で読めます

この記事のポイント

  • ① 企業が成熟期に入れば、企業が危機に陥っても経営者の個人資産でしのぐことができるよう、また経営者のライフプラン実現のため、企業として経営者の財産形成を開始するのがベター
  • ② 資産形成を始める際の手順は、(1)経営者の家族構成や収支・財産状況を把握・分析、(2)経営者の今後のライフプランを検討、(3)企業の貸借対照表や損益計算書を分析、(4)企業の将来的な数値計画を考慮
  • ③ 会社として行う中小企業経営者の資産形成としては、(1)役員報酬の増額、(2)法人保険への加入、(3)企業型確定拠出年金(企業型DC)、(4)役員借入金の返済、(5)地代・家賃の支払い、などが考えられる
  • ④ 資産形成方法を選択するときのポイントは、(1)ライフプランに沿ったものとすること、(2)長期的視点で考えること、(3)リスクの分散を図ること

長く経営を続けていると、会社の経営が困難な状況に陥ることもありますが、ピンチになってから資金調達をしようとしてもうまくいくとは限りません。

そのようなときに、経営者の個人資産でしのぐことができれば、経営を立て直すことができますし、事業の成長や拡大のために使うこともできます。

また、資金に余裕があれば、新しいプロジェクトに投資をしたり、事業拡大計画を練ることもできます。

1 なぜ資産形成が必要なのか

(1) 中小企業経営者に資産形成が必要な理由

企業のライフルサイクルとして、創業期、成長期、成熟期、衰退期があることは広く知られています。

一方、これに対応する経営者のライフステージとして、起業・(現経営者が後継者となった)事業承継期、成長期、成熟期、勇退準備期があると考えられます。

企業の創業期から成長期においては、経営者は『どうやって企業を存続させていけばよいのか?』を最優先に考え、個人のことは二の次で、役員報酬を抑えたりして、資産形成どころではないことが多いのではないでしょうか。

また、企業に何かあった場合のことを考えて、個人資産は投資ではなく貯蓄を重視していることが多いでしょう。

企業が成熟期に入れば、資金的な余裕もでき、財務(資金繰りなど)も良くなり、金融機関との関係も深まっていると考えられます。必要な資金調達も比較的容易にできるようになっているのではないでしょうか。

そうなると、企業を存続させることを最優先に考えるのではなく、企業として経営者の財産を形成し、企業に万が一のことがあった場合に、経営者の個人資産でその場をしのぐことができるような状態にすることを考えてもよいでしょう。

また、経営者も年齢を重ね、そろそろ、ライフプラン実現のために資産形成を始めたり、貯蓄と投資のバランスを見直す時期に来ているのです。

(2) いつから始めるのがよいのか

資産形成で得た利益を再び投資することで利益が利益を生み、さらに資産が増えることを「複利の効果」といいます。資産形成はこうした複利の発想が重要であるため、早めに始めることに越したことはありませんが、前述のように、企業の経営の安定がまず先であり、企業のライフサイクルとして、成熟期に始めるのがよいでしょう。

もちろん、一般論ですので、企業によっては、創業期や成長期から始めることのできる企業もあれば、経営者のライフステージとして、勇退後のライフプランを考え出す勇退準備期のタイミングなどで始めることもあるかもしれません。

2 資産形成を始める際の手順

まず、経営者の家族構成や収支・財産状況を把握・分析することから始めましょう。

家族構成はどうなっているか、収支はどのようになっているか、財産にはどのようなものがあるかを把握し、貯蓄と投資のバランスなどを分析します。

次に、経営者の今後のライフプランを考えます。

ライフプランには、生活費のほかに、車の購入費用や住まいのリフォーム費用、旅行費用など、臨時的な支出も盛り込みます(下表参照)。

単位:万円

2024
現在
2025
1年後
2026
2年後
2027
3年後
2028
4年後
2029
5年後
2030
6年後
2031
7年後
2032
8年後
2033
9年後
2034
10年後
本人 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 66歳 67歳
配偶者 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳
長男 30歳 31歳 32歳 33歳 34歳 35歳 36歳 37歳 38歳 39歳 40歳
長女 28歳 29歳 30歳 31歳 32歳 33歳 34歳 35歳 36歳 37歳 38歳
イベント
本人       車購入         社長退任 旅行 リフォーム
配偶者                      
長男   結婚   第1子   第2子     社長就任    
長女       結婚   第1子   第2子      
収入
給与 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 600    
その他                   200 200
臨時                 5,000    
収入合計 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 5,600 200 200
支出
生活費 600 600 600 600 600 600 600 600 480 360 360
保険料 120 120 120 120 120 120 120 120 120 20 20
その他 120 120 120 120 120 120 120 120 160 200 200
臨時   300   700   200   100     500
支出合計 840 1,140 840 1,540 840 1,040 840 940 760 580 1,080
収支 360 60 360 ▲340 360 160 360 260 4,840 ▲380 ▲880
貯蓄残高 3,360 3,420 3,780 3,440 3,800 3,960 4,320 4,580 9,420 9,040 8,160
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現在
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本人 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 66歳 67歳
配偶者 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳
長男 30歳 31歳 32歳 33歳 34歳 35歳 36歳 37歳 38歳 39歳 40歳
長女 28歳 29歳 30歳 31歳 32歳 33歳 34歳 35歳 36歳 37歳 38歳
イベント
本人       車購入         社長退任 旅行 リフォーム
配偶者                      
長男   結婚   第1子   第2子     社長就任    
長女       結婚   第1子   第2子      
収入
給与 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 600    
その他                   200 200
臨時                 5,000    
収入合計 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 5,600 200 200
支出
生活費 600 600 600 600 600 600 600 600 480 360 360
保険料 120 120 120 120 120 120 120 120 120 20 20
その他 120 120 120 120 120 120 120 120 160 200 200
臨時   300   700   200   100     500
支出合計 840 1,140 840 1,540 840 1,040 840 940 760 580 1,080
収支 360 60 360 ▲340 360 160 360 260 4,840 ▲380 ▲880
貯蓄残高 3,360 3,420 3,780 3,440 3,800 3,960 4,320 4,580 9,420 9,040 8,160

ライフプラン作成にあたっては、勇退後にどのようなセカンドライフを送りたいかをイメージします。勇退後も生活水準をあまり下げずに、充実したセカンドライフを送りたいと思えば、必然的に老後に必要な資金も高額になります。

資産形成はライフプランに沿って行うことになるため、できるだけ綿密なライフプランを作成することが肝要です。

そして、企業として経営者の資産形成を考えるため、企業の貸借対照表や損益計算書も分析します。

また、企業が将来的な費用負担や資金負担に耐えられるものでなければならないため、企業の将来的な数値計画も考慮する必要があります。

そこから、ライフプランに沿った資産形成の方法を決めていくことになります。

なお、これらの手順において、財産を把握したり、ライフプランを考えたりするため、経営者が事業承継や相続のことを真剣に考えるきっかけとなりうるでしょうから、場合によっては、事業承継計画や相続対策と並行して進めていくことも考えられます。

3 資産形成にはどんな方法があるのか

会社として行う中小企業経営者の資産形成としては、例えば、以下のようなことが考えられます。

  • (1) 役員報酬の増額
  • (2) 法人保険への加入
  • (3) 企業型確定拠出年金(企業型DC)
  • (4) 役員借入金の返済
  • (5) 地代・家賃の支払い

(1) 役員報酬の増額

役員報酬の増額は比較的容易でしょう。

手取額を増やすという観点からは、事前確定届出給与を利用して、社会保険料を抑えることも検討に値します。

(2) 法人保険への加入

法人保険への加入で、役員退職金を準備することができます。

一般的に、契約者を法人、保険の対象者(被保険者)を経営者、受取人を法人として契約することになります。

(3) 企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が掛金を毎月積み立て(拠出)し、加入者自らが年金資産の運用を行う制度です。

加入者は掛金をもとに、金融商品の選択や資産配分の決定など、様々な運用を行います。

そして、原則60歳まで引き出すことはできませんが、60歳以降に、積み立ててきた年金資産を一時金(退職金)、もしくは年金の形式で受け取ることになります。

掛金の額は、企業での役職等に応じて決まるのが一般的です。

ただし、制度上、掛金の上限額は以下のとおり定められており、この上限額を超えて掛金を出すことは認められていません。

他の企業年金(※)がある場合 月額27,500円
他の企業年金(※)がない場合 月額55,000円
  • 他の企業年金とは、厚生年金基金、確定給付企業年金などです。

この企業型DCには、3つの税制優遇措置があります。

  • ① 企業型DCの運用で得た利益は全額非課税となること
  • ② 積み立ててきた年金資産は60歳以降、一時金か年金の形式かで受け取ることになりますが、どちらの形式でも税制優遇が受けられること
  • ③ マッチング拠出(企業の掛金に加えて、加入者が掛金を上乗せして拠出すること)を利用した場合、加入者が拠出する分の掛金については、全額所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されること

(4) 役員借入金の返済

企業の創業期や成長期など資金に余裕がないときに、金融機関からではなく、経営者から借り入れることがあります(いわゆる役員借入金。経営者からすると貸付金)。

成熟期に、まだ役員借入金が残っている場合、返済することが考えられます。

役員借入金の返済は、役員報酬の支給と異なり、経営者にとっては給与収入ではなく、単なる貸付金の返済に過ぎないので、課税関係が生じないのです。

(5) 地代・家賃の支払い

企業が使っている土地や建物も、ともに所有者が経営者であったり、土地は経営者、建物は企業が所有者である場合などに、企業が地代や家賃を支払っていなかったり、支払っているとしても世間相場からすると低額であることが多々あります。

このようなときは、経営者に不動産所得が発生する可能性があるものの、経営者に世間相場の地代や家賃を支払うことが考えられます。

4 資産形成方法を選択するときのポイント

資産形成方法を選択するときのポイントとして、以下の3つが挙げられます。

  • (1) ライフプランに沿ったものとすること
  • (2) 長期的視点で考えること
  • (3) リスクの分散を図ること

(1) ライフプランに沿ったものとすること

前述のように、中小企業経営者のライフプランは、一般の人に比べて支出金額が多くなるものと思われます。したがって、こうした点をもとに設定されたライフプランに沿った資産形成方法を考えましょう。

(2) 長期的視点で考えること

企業の財政状態などもありますので、すぐに資産形成ができるわけではありません。

また、短期的な増減に一喜一憂することなく、資産形成は長期的視点で考えましょう。

複利の効果を生かすためにも、できるだけ早めのスタートが望まれます。

(3) リスクの分散を図ること

特定の資産形成方法に偏ると、企業の財政状態や経営成績に悪影響を与える可能性があり、経営者の財産にも悪影響を与える可能性があります。

そのため、いくつかの資産形成方法を選択することで、リスクの分散を図ることが肝要です。

【著者】

國村 年(くにむら みのる)

公認会計士・税理士・香川大学大学院客員教授・日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格者・戦略MG インストラクター


関西学院大学経済学部卒業。1996年から監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、2007年から小谷野公認会計士事務所に勤務したのち、2011年に香川県高松市で國村公認会計士事務所開業。贈与・相続、事業承継、M&A・組織再編、棚卸のコンサルティングを中心に行っている。著書・執筆は、『誰も教えてくれなかった実地棚卸の実務Q&A』(中央経済社)など多数ある。

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