インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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中小企業庁は「事業承継ガイドライン」を約5年ぶりに改訂し、今年3月に公開しました。筆者は、今回の改訂前、2016年版の作成に中小企業庁担当者として関与しましたが、今回は以下の3点を中心とした改訂が行われています。
今回、事業承継ガイドラインが改訂された背景は、図表1のとおりです。
■図表1 事業承継ガイドライン改訂の背景
①支援策の充実と事業承継の実態の変化 | 2016年のガイドライン改訂から約5年が経過する間、M&Aを含め、国による事業承継に関する予算制度・税制度、法令等の各種支援策が充実してきており、事業承継・引継ぎ支援センターによる支援も着実に進展している。これと同時に、事業承継の実態も変化しつつある。 |
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②事業承継の進展が不十分 | 後継者不在の中小企業の割合が減少するなど事業承継に向けた取組みは進展しつつある一方、後継者不在率は依然として高い水準であり、進展は十分ではない。 |
③新型コロナウィルスの影響 | 新型コロナウィルスの影響等により、足下では事業承継の時期を後ろ倒しする中小企業も増加している。 |
このように、中小企業庁としては、事業承継の進展が不十分であることや新型コロナウィルスの影響なども踏まえて、近年充実させた各種支援策の活用を促進することで、事業承継の促進を強化するために、このタイミングでガイドライン改訂に踏み切ったものと思われます。
これについては、2016年版から社会情勢は大きく変化し、また中小企業の事業承継支援策は図表2のとおり、大幅に拡充されていますので(特筆すべきは、事業承継時の税負担を大幅に軽減する事業承継税制の期間限定措置や、承継を促進する各種補助金です)、これらのアップデートが行われています。
■図表2 2018年以後に新設・拡充された事業承継に関連する施策の例
税制改正関係 |
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経営承継円滑化法改正関係(税制改正関係を除く) |
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民法改正等関係 |
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ガイドライン策定・改訂関係 |
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さらに、改訂のリリースに併せて、事業承継に関する国等の支援策の一覧資料(下記URL参照)もリリースされており、若干複雑になっている各種支援策がビジュアルで整理されていますので、一見の価値があります。
中小企業庁/事業承継に関する主な支援策(一覧)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_shien.pdf
従業員承継については、実務上問題となる後継者である従業員の家族との調整の視点や、後継者による資金調達の手法、保証債務の問題なども紹介されており、非常に実務的です。
また、「M&A」については、近年、中小企業のM&A件数がかなり増加していることも受けて、記載内容が充実されています。2021年3月に策定された「中小M&Aガイドライン」の内容も反映されていますが、ぜひ中小M&Aガイドラインもご一読ください。
中小企業庁/中小M&Aガイドライン
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf
これについては、2016年版において、筆者としても必ずしも十分に紙幅を割くことができていませんでした。事業承継の主要なプレーヤーである後継者にとって承継しやすい環境を整えることは、円滑な事業承継を実現する上で不可欠な考慮要素であり、現経営者にも、このような目線でご自身の事業承継プランを検討していただければと思います。
従来、事業承継といえば経営者の子や親族への承継が大多数でしたが、近年、M&Aはもちろん、従業員への承継もかなり増加してきています(図表3参照)。
従業員承継で実務上頻出する課題は、やはり後継者の承継意思です。従業員と経営者では心構えがまったく異なりますので、突然自社の承継を打診された従業員は大きな不安と困惑に陥ります。何よりも、経営者が早期に事業承継計画を検討し、後継者候補となる従業員と対話を重ね、意識を変えていかなければなりません。
承継意思のほか、もちろん債務・保証の問題や株式承継の問題も伴いますが、承継に向けた準備に早期に着手できれば、できることの選択肢が広がります。
実際に、我が国において中小企業の経営者不在による廃業を引き起こしている一つの要因として、M&Aに関する経営者の意識が挙げられます。経営者の方とお話をする際、よく聞くのが「自社なんて売れるはずがない」という言葉です。
M&Aというと、新聞に載るような大企業の世界の話とお考えではないでしょうか。現実には、図表4のとおり、過去に他社を買収したことのある中小企業向けのアンケートにおいて、M&Aの対象となった会社の75%は従業員数20人以下の会社であったことが明らかになりました。M&Aは多くの中小企業にとって他人事ではなく、現実的な選択肢となっているのです。
既述のとおり、今回のガイドライン改訂で充実された柱の一つが、後継者の目線に立った説明です。もちろん従来も、株式の分散防止や税負担の軽減、債務・保証への対応などは、これらによって後継者が困らないようにするために検討されてきました。
今回は、そのような観点から一歩進んで、後継者にとってのよりよい事業承継、特に事業承継時の後継者の年齢に関する下記の調査結果が示されています。
このように、事業を承継した後継者の多くは、40歳代前半を事業承継に適した時期であったと評価しています。事業承継は、経営者交代をきっかけとした企業の再成長のタイミングともいえますが、事業を引き継ぐ後継者にとっても、意欲・体力・経験が充実した時期に承継したいと考えているはずです。現経営者の皆様におかれては、ご自身の考えられている事業承継計画が、後継者にとって適した時期といえるかについても、ご配慮いただければと思います。
今回は、事業承継ガイドラインの改訂を受けて、その内容のご紹介と、注目すべきポイントについて説明してまいりました。これらの情報を踏まえて、読者である経営者の皆様においてご検討中の事業承継計画についても、最新の計画にアップデートしていただければ幸いです。
【著者】
伊藤 良太(いとう りょうた)
弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士
2012年弁護士登録、2015年から経済産業省中小企業庁にて事業承継施策(事業承継税制、事業承継ガイドライン、補助金制度等)を担当。2017年弁護士に復帰し、現在は弁護士法人フォーカスクライドのパートナー弁護士として、中小企業の事業承継を中心に、組織再編、M&A、資本政策やガバナンス等の企業法務、個人の相続対策や障害者の親なきあと問題に取り組む。
この記事に記載されている法令や制度などは2022年7月時点のものです。
法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。
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