インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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後継者不在による中小企業の廃業が相次ぐ中、雇用や経済全体への影響が懸念されている。そうした中、家業を継ぐ女性を支援する取り組みがアカデミアで始まった。どのような内容なのか、取材した。
その名もずばり、「”跡取り娘”人材育成コース(以下、跡取り娘コース)」。女性事業継承者育成プログラムとして、昭和女子大学(東京都世田谷区)キャリアカレッジ(以下、キャリアカレッジ)に2018年に新設された。
キャリアカレッジは、働く女性向けのビジネススクールとして設立され、2014年から企業で働く女性のキャリアアップと起業を含め、女性の活躍を支援するプログラムをスタートさせている。背景には、安倍政権が掲げる、指導的地位の女性割合「2020年30%」目標がある。共働き社会に移行する大きな潮流はもう止まらない、と熊平美香学院長は断言する。
「今までも、”女性の活躍ブーム”はありましたが、出ては消え、の繰り返しでした。しかし、今回は続くと確信をもって言えます。経済的な理由からとか、親の介護の問題とかから、夫婦で働かなくてはいけない雰囲気になっています。社会が女性を受け入れ始めていると感じています」
女性が経営者になることに対し、ハンディがなくなり、女性の経営者を育てるのにいい時期になった、と熊平氏は分析する。一方で、家業の場合、女性後継者の課題は「迷い」だという。
「男性は生まれた瞬間から『あなたが後継者よね』という期待を浴びて育ちますよね?女性にはそれがない。だから、覚悟が持てない。男性ほど『私が後継者です』ってはっきり言わないんですよね」
「跡取り娘」の立場にいる人たちは、自分が何をしなければいけないのか、わからないケースがほとんどだ。同じ境遇の彼女らが一堂に会して悩みを共有できることは、跡取り娘コースの大きなメリットだろう。
彼女たちが直面している問題とは何なのか?熊平氏は、ファミリービジネスの難しさをこう指摘する。
「ファミリービジネスはビジネスだけやっていればいいわけではありません。ファミリーをマネージすることと、オーナーシップ(当事者意識)をマネージすること、この二つがすごく大きなテーマです。人間模様も含めてマネージしていかないと、争いが起きたりして、結局ビジネスがこけてしまうのです」
コースでは、ビジネスの基本の他、色々な経営者の話を聞いたり、AI時代の到来を、自分達のビジネスにどう結びつけていくのかなどの戦略思考を学ぶ。
「今の延長線上に会社はありません。学び続けることが大事だということを知り、何を学ばなければいけないのかを考える。それがこのプログラムの特徴です」
コースで知り合った跡取り娘たちは、話を聞きたい経営者に能動的にアプローチしてどんどん学んでいるという。大学に来るまでは、自分は後継者としてどうしたらいいのだろう、などといった迷いがあった彼女たちも、吹っ切れて着実に前に進み始めている。
「不易流行」とは、いつの時代も変わらない本質的なものを忘れずに、かつ、新しい変化も取り入れていくこと。IoT、AIなどの登場で急速に時代が変化しているからこそ、この言葉を大切にしたい、と熊平氏は言う。
「事業の転換に成功しないと経営者としてこれからは苦しいですね。 その会社に根付いている大事なもの、守るべきものをちゃんと知った上で、それ以外のことを変えていく、その見極めが出来る人じゃないと厳しいのではないかなと思います」
だからこそトップは、自分自身が学び続け、変わっていかねばならない。先代が大切にしてきた人や会社とそのままお付き合いするのか、しないのか。そうした決断を迫られる。仮に別な会社と新たなパートナーシップを組むとなった時、自社の「不易」の部分で相手と共感できるかがカギとなると熊平氏は強調する。なかなか難しそうに思えるのだが。
「でも大切なことは、情熱と覚悟ですよ。良い方向にしたいという強い意志さえあれば、そういう風に行かざるを得ない。後は色んな方に話を聞いて学んでいくスキルがあれば、答えが向こうからやってきます」
実際、女性経営者に取材していると、子どものころから「お前は継がなくていいから」と言われて育ってきた、と話す人が多い。無論、娘には家業を継がせて苦労させたくない、という親心もあろう。とはいえ、継承者不足である。息子だからといってすんなり継いでくれる保証もない。最初から娘を後継者から外す理由もないのではないか。
「そういう経営者さんは、時代を読めてない人たちですね。世の中には過去に生きている人と未来に生きている人の2種類がいます。前者は、未来は何も変わらないという前提で判断しているのだと思います。」
それは事業の継続性の観点からとても危険なことだと熊平氏は強調した。
では経営者にとって必要な資質とはなんだろうか?熊平氏は、「リフレクション(自己内省)」と「ダイアローグ(対話)」の二つを挙げた。
「『リフレクション(自己内省)』は、未来を作る上で重要な力です。自分が今何を前提に物事をとらえているのか、どういう経験をしているからそういう風に考えているのかなどを、自分から離れて、多角的多面的にとらえる力がないと、変化は作れません」
その「リフレクション(自己内省)」は、もう一つの「ダイアローグ(対話)」においても不可欠だと熊平氏は強調する。
「『ダイアローグ(対話)』とは、『リフレクション(自己内省)』と『人に対する共感』が同時に起きることなのです。経営者が何らかの意思決定をする上で、過去にとらわれてないかリフレクションすることが必要だし、自分が知らないことを取り込んでく上で対話も必要です。結局新しい時代の波に乗っていくためには、この2つは絶対必要なのです」
女性経営者のエンパワーメントに長年取り組んでいる熊平氏。女性活躍が社会変革を進めるカギになると見ている。
「役員会の女性が2割を超さないとなかなか雰囲気は変わりません。やはり一定のボリュームで女性がいると、『それっておかしいよね?』と言える状態になります。女性は忖度嫌いですからね(笑)。女性の持つ現状を疑問視する力が世の中を動かしていくと思っています」
だからこそ、熊平氏世代のこれまでの経験から培ったノウハウを若い女性に渡し、現在の男性社会の荒波に、難なく乗りこなす手伝いをしたい、という。
”跡取り娘”人材育成コースの卒業生で、まだ家業を継いだ人はいないそうだが、これから続々と経営者としてデビューするだろう。その時、彼女らにインタビューするのが今から楽しみだ。
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エヌエヌ生命では、先代の逝去等による突然の事業承継で経営者になった方々を支援する様々な取り組みを行っています。各取り組みは、以下のリンクよりご覧いただけます。